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東京地方裁判所 平成9年(特わ)955号 判決 1997年12月12日

主文

被告人を懲役四月及び罰金四〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

東京国税局で保管中の「役人ごろし」と称する雑酒(平成九年東地庁外領第五八〇号の6、9)、ビニール袋二袋(同号の7)及び青色ポリ容器二個入りの雑酒(同号の1)を没収する。

訴訟費用中、証人A及び同Bに支給した分は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、いずれも、法定の除外事由がないのに、所轄税務署長の免許を受けないで、東京都杉並区《番地略》乙山マンション一階「ヤミ米丙川」店舗内において

第一  業として、平成八年九月六日ころ、不特定の顧客であるA及びBに対し、雑酒合計約三リットルを代金合計三〇〇〇円で販売し、もって、免許を受けないで酒類の販売業をし

第二  米、米こうじ及び水を原料としてこれに培養酵母を加えたものを発酵させる方法により

一  同年九月下旬ころ、雑酒約三六・一リットルを

二  同年一〇月初旬ころ、雑酒約三一・〇五リットルを

製造し、もって、免許を受けないで酒類を製造し

たものである。

(証拠の標目)《略》

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は包括して酒税法五六条一項一号、九条一項に、判示第二の所為は包括して同法五四条一項、七条一項にそれぞれ該当するところ、情状により同法五七条を適用して各罪所定の懲役及び罰金を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に同法四七条ただし書の制限内で法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金の多額を合計し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役四月及び罰金四〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、東京国税局で保管中の「役人ごろし」と称する雑酒(平成九年東地庁外領第五八〇号の6、9)及びビニール袋二袋(同号の7)は、判示第一の罪に係る酒類及び容器であるから、酒税法五六条二項により、青色ポリ容器二個入りの雑酒(同号の1)は、判示第二の罪に係る酒類及び容器であるから、同法五四条四項によりそれぞれ没収し、訴訟費用のうち証人A及び同Bに支給した分は、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

(事実認定等についての補足説明)

被告人及び弁護人の主張にかんがみ、本件の事実認定及び法律解釈について若干補足して説明する。

一  被告人は公判廷において本件各公訴事実を否認し、種々の弁解をしているが、事実関係についていかなる主張をするのかが終始曖昧であるのみならず、時折自己が酒類の製造・販売に及んだことを前提とするかのような供述もしているところである。被告人の供述はさておき、証人C、同A、同B及び同Dの当公判廷における各供述を初めとする前掲各証拠を総合するだけでも、判示各事実(いずれも公訴事実と同旨)を優に認定することができるし、また、判示第二の事実の犯行日時も、この犯罪の性質と本件の証拠関係にかんがみこの程度で特定は十分であると解される。

なお、被告人は、第七回公判期日において、被告人の検察官調書(乙2)について、空白を八行分空けた行に署名押印を求められてこれに応じたのであり、その八行は検察官が後に勝手に作文して記入したものである旨供述するに至ったが、右供述自体、その検察官調書の記載内容や体裁に照らして不自然・不合理なものといわざるをえないし、また、被告人は第六回公判期日にはその検察官調書の作成経緯について詳しく質問されているのに、右のような供述はしていないのであるが、このような供述経過をも併せ考えると、被告人の右供述は到底信用することができない。被告人が本件につき起訴されることを願っていたと自認していることをも考慮すると、被告人は、この検察官調書のとおり、判示各事実と同旨の事実を概括的にせよ任意に自白していたものと認められる。

二  酒類販売業を免許制とした酒税法九条一項が憲法二二条一項に違反しないこと、酒類製造を免許制とした酒税法七条一項等の規定が合憲であることは、いずれも累次の最高裁判例(前者につき、第三小法廷平成四年一二月一五日判決・民集四六巻九号二八二九頁等、後者につき、第一小法廷平成元年一二月一四日判決・刑集四三巻一三号八四一頁等がある)に照らし明らかというべきである(弁護人は前者についてのみ違憲の主張をしている)。なお、酒類を「アルコール分一度以上の飲料」とした定義(酒税法二条一項)が明確性に欠けるなどとはいえないことも、特に説明を要しないと思われる。

(量刑の理由)

本件は、被告人が無免許で、雑酒(どぶろく)を製造し(製造量約六七リットル)、かつ、その販売業をした(販売量約三リットル)という事案であり、その製造や販売にかかる雑酒は多量とはいえないが、被告人は、平成七年三月七日富山地方裁判所で食糧管理法違反(米穀の無許可販売業)及び酒税法違反(酒類の無免許製造)の各罪により罰金三〇〇万円に処せられ、控訴したが同年九月二八日控訴棄却の判決を受け、上告中であったにもかかわらず(被告人は本件各犯行後の平成八年一〇月一一日に上告を取り下げ、右裁判は確定している)、市街地の一角に「ヤミ米丙川」と称する店舗を構え、「国税庁殿 これがドブロクだ 酒税法違反被告人甲野太郎」と記載した大きな看板を立て、自己が製造・販売する雑酒を「役人ごろし」と名付け、その名称のほかに「国税庁殿 これがドブロクだ」などとも記載したビニール袋に入れてこれを販売したものであるし、また、国税庁に同店の開店案内を送付するという挑発的行為にも出ていたものである。被告人は本件犯行を否認している関係で犯行動機についても明確な供述をしていないが、本件につき国税犯則取締法上の通告処分を受けたのにこれを無視してその趣旨を履行せず、公判廷においても起訴をされるよう願っていたと述べるほか、自己の職業を「被告人業」とうそぶいていることをも考慮すると、営利のほかに売名も動機に含まれているものと推認される。被告人は不合理な弁解に終始し、全く反省の態度を示していない。以上のような事情にかんがみると、本件の犯行態様は相当悪質であって、その宣伝効果による酒税徴収行政への悪影響も憂慮されるところであり、動機に酌むべき点は見当たらず、被告人の法軽視の態度には顕著なものがあり、犯行後の情状も芳しくないといわなければならない。当裁判所は、以上のほか審理に現われた一切の事情を考慮し、今回は被告人に対しては主文のとおり懲役刑(執行猶予付き)と罰金刑を併科するのが相当と判断した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役六月及び罰金五〇万円、雑酒等の没収)

(裁判官 安廣文夫)

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